フェアウェイウッドがさっぱり当たらないのである。
だから、まぐれのヒットを狙うより凡打で飛距離を稼ぐ作戦、名付けてウサギとカメ作戦で戦うのである。
ドライバーでティーショットを打った後、使うのはひたすら7番アイアン。パー5のコースだろうが7番アイアン。
気が遠くなるようなこの作戦、ちなみに時と場合によっては意外にも結構有効だったりする。
特に、力でかっ飛ばしてOB連発するようなうちの旦那みたいなのと回るときには。(目くそ鼻くそを笑う作戦とも言う)
そんな7番アイアンの女、前日海外のゴルフ場でプレーすることになった。
南国だしー、ゆるーく楽しくプレーできればいいよねうふふなんて考えは、朝クラブハウスに着いた途端打ち砕かれた。
立派なロビーは見渡す限り、ゴルフブランドのファッションでばっちり決めた、いかにも上手そうな方々で溢れかえっていたのである。
そして結構混んでもいるようで、早朝からひっきりなしにプレイヤーがスタートしている。
マズイ。これはのんびりプレーしようなどと言っている状況ではない。
さっさと回らないと、後続の組にお尻を叩かれることになりかねない。
すでにメンタルはガタガタ(←小心者)。すっかり気後れしながらも、スタートまで時間があったため、とりあえず練習場へと向かった。
何球か打ちはじめたところ、日本人の小学生くらいの女の子と母親を乗せて、一台のカートが練習場に入ってきた。
おや珍しいと思って見ていたら、母親の方と目が合って、話しかけられた。
「おはようございまーす」
「あ、おはようございます」
「今日は空いてますねー。昨日はすごく混んでて、カートも借りられなかったんですよー」
「(えっこれで空いてるの)はあ、そうなんですか」
「ほら昨日有名なコンペやってたでしょう?そのせいで混んでて、この子も練習できなかったんですよ。この子、このゴルフ場のジュニア会員なのに、練習させてもらえなくって。だから今日は朝から来たんです」
ジュニア会員であるという当の娘は、隣でゴロ出しまくっている。
お母さん、大きなお世話だとは思いますが、私に話しかけるよりも娘のレッスンしてあげたほうが良いのではないでしょうか。
しかしお母さんの話は止まらない。
「それでね、昨日のコンペの決勝ご覧になりました!?」
「いや見てないです…」
「私ね娘と一緒に見てたんですけど、もう本当にありえなくって、だってね(略」
お母さんは私が7番アイアンを握りしめたままなのも目に入らないようで、昨日のコンペの
結果への不満を私にぶちまける。
どうやら私はお母さんにがっちり捕食されたようである。
やばい。逃げられない。
そんなとき視界の片隅に、カートへ歩いていく旦那が映った。
やった、神の助け!
「あ、ねえ、もうクラブハウス戻る時間だよね?」
「いや、まだ時間あるよ。」
(空気読めやーーーー!!)
頼りにならない旦那を尻目に、お母さんの捕食は続く。
「それでね、昨日の結果に我慢できなくって。だってそんなプレーする人プロとしてどう思います!?」
「はあ…ひどいですね…」
「ありえないでしょう?!それでね(略」
クラブハウスに戻り、すっかり養分を吸い取られた私は、ぐったりしながら空気の読めない旦那に言った。
「すごいお母さんだったね…朝からすでにメンタルぼろぼろだよ。」
「メンタルのせいにするな!お前に隙があるからああいう人に捕まるんだ。だいたいTくんやMくんもそうだ。隙を見せるな!」
沖縄在住のTさんやモルディブのMさんには、とんだとばっちりである(なぜか旦那の中では、宮城県出身者は隙だらけだと一括りにされている)。
そんな状態で周りはじめた1ホール目。
旦那のティーショットは、見事なまでに目の前の谷へ吸い込まれていった。
鳥頭に定評のある彼は、ついさっき私を叱咤したその口で、こう言った。
「なんで目の前に谷があると、谷に向かって打っちゃうんだろう。俺メンタル弱いなー」
私が突っ込んだのは、言うまでもない。
「メンタルのせいにするな!」